自分の年齢を考えたとき、会社をこれからどうしようかと漠然と悩んでいます。子どもたちは会社を継ぐ意志はなく、また社員にもその気はないようです。
継ぐことができなければ、やめるという選択肢もあるのですが、顧客や職人のことを考えるとやはり誰かに引き継いだほうが良いと思っています。
この先、どういった方向がいいのでしょうか?
(リフォーム業社長・50代・岡山)
そうですね、よく分かります。
50歳を過ぎるころから社長は「この先、うちの会社をどうしようか?」と、ふと考えるようになります。
これ自体は健全なことです。
とはいえ、悩ましい問題でもあります。
「自社の今後」は後回しになりがち
ある工務店社長の話です。
40代は飛ぶ鳥を落とす勢いで業績は絶好調。その頃は「55歳になったら引退する」と、おっしゃっていました。
ところが、まもなく60歳。引退どころかいまだに先頭に立って会社を経営しています。
なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか?
理由はいろいろ考えられますが、要因のひとつに「事業承継を真剣に検討してこなかった」が挙げられます。
事業承継は「いま」ではなく「10年先」など未来の話なので、つい後回しにしてしまいがちです。
また息子さんがいると、社長が勝手に「いずれは自分の後継者」と決めてしまっていることもあります。
仮に息子さんを後継者にしようと考えても、「本人の意思は? 能力は? 適性は?」など、多くの課題が待ち受けています。
全国の社長が「事業承継」に悩んでいる
社長が後継者(新たな社長)に経営を引き継ぐことを「事業承継」といいます。
工務店に限らず、いま日本全国の中小企業では「事業承継」が大きな問題となっています。
会社ごとに事業承継をする条件や環境は違います。
それでも社長の悩みはほぼ同じ「これからどうしよう?」という漠然としたものです。
今回は、工務店の事業承継について、基本から解説していきます。
工務店の事業承継で大切なことは?
前述のとおり、「事業承継」とは、社長が会社や事業を後継者に引き継ぐことです。
ただし、工務店の事業承継は、単なる経営権の移転ではありません。
工務店には、地域社会との絆を維持継続させる役割もあるからです。
・ 顧客との長年の信頼関係をどう維持するか
・ 職人さんとの良好な関係をどう引き継ぐか
は、とても大切なポイントで、よく考える必要があります。
このように事業承継では、
■ 事業の継続性の確保
■ 従業員の雇用維持
■ 顧客や取引先との信頼確保
■ 地域への貢献
■ 現社長の資産保全
などが課題となります。
これらを含めて事業承継を検討していきます。
事業承継の方法とは? メリット・デメリットを解説
事業承継には大きく次の3つの方法があります。
それぞれにメリット・デメリット、留意点があります。
順に見ていきます。
1.親族内承継
「親族内承継」とは、事業を家族や親族に引き継ぐ方法です。
いまでも多くの企業で行われるオーソドックスな方法で、特に親子間承継が多く行われています。
「同族経営」とも呼ばれます。
中でも多いのは、ご長男に承継するケースです。
社長としての能力を育成するには時間がかかります。
早い時期にご長男と相談し、事業承継スケジュールを決める必要があります。
親族内承継のメリット
・関係者(社員、職人さん、取引先、金融機関など)からの理解が得られやすい
・後継者に会社のノウハウを伝承しやすい
・相続対策を早く始めることができる
親族内承継のデメリット
・適切な後継者が見つからないことがある
・親族間の争いが起きる可能性がある
・新しい経営手法の導入が遅れることがある
親族内承継の留意点
・後継者本人の意思確認…親はそのつもりでも、本人にその意思がないケースは多い
・本人の経営者としての資質…社内での実務習得や、経営者としての知識を学ぶ時間が必要
・早めの計画…5年~10年をかけて経営者として育てていく計画を立案する
・早期の相続対策の検討…相続は思いのほか手間がかかることが多いので、早めに検討を始める
親族内承継について、詳しくは128回記事で解説していますのでご参照ください。
2.従業員承継
「従業員承継」は、役員や従業員に経営権を譲渡する方法です。
MBO(Management Buy Out の略)とも呼ばれます。
社内の事情に詳しい人材が引き継ぐため、スムーズな移行が期待できます。
ただし、その人材の人望が大きな課題となります。
MBOでは、従業員が会社の株式を買い取り、経営権を譲り受けます。
株式評価額にもよりますが、大きな金額の場合はその資金調達について、金融機関やファンドの支援が必要になることがあります。
従業員承継のメリット
・信頼できる従業員が後継者となるため、事業の継続性を維持しやすい
・親族に適任者がいなくても、内部の優秀な人材に事業を引き継ぐことができる
・関係者(社員、職人さん、取引先、金融機関など)からの理解が得られやすい
従業員承継のデメリット
・前社長の補佐としてNo.2の仕事はできても、経営トップが務まらない場合がある
・社長の信頼は厚くても、社員からの人望がない場合は混乱する
・買収資金の調達のため、金融機関やファンドの支援が必要となる
従業員承継の留意点
・複数の株主から株式を買い取る場合は、反発を招かないように丁寧な対応が必要
・手続きが煩雑になることが多い
・前社長の影響力がぬぐえず、新社長の独自性が発揮しにくくなることがある
・事前の計画と準備が極めて重要
3.M&A(第三者への売却)
「M&A」とは「Mergers and Acquisitions」の略で、「合併と買収」と訳されています。
他の企業や投資家に事業を売却する方法で、近年は工務店でも活発に行われています。
適切な買い手を見つけることが重要です。
M&Aでは、「売り手企業」(譲渡側)と「買い手企業」(譲受側)が、細かな条件交渉を行います。
そして売買条件を合意したのち、M&Aが成立することになります。
後継者がいない工務店にとって、M&Aは非常に有効な手段となっています。
M&Aのメリット
・事業の継続性を確保する
・従業員の雇用を維持する
・顧客サービスの継続ができる
・社長の引退後の経済的な安定が見込める
M&Aのデメリット
・売り手企業の経営方針と買い手企業の方針が一致しない
・顧客管理の質が低下する可能性がある
・従業員のモチベーション低下の可能性がある
・ブランドイメージが変化することがある
M&Aの留意点
・「売り手(=工務店側)」として、M&Aを行う目的や条件(既存顧客への対応、従業員の雇用の確保、希望する売却価額など)を明確にする
・「買い手」を探すため、M&A仲介会社(コンサルタント)、金融機関、既存取引先や業界ネットワークなどから買い手候補を探す(秘密保持の徹底を図る)
・適切なM&Aコンサルタント、弁護士、税理士など専門家やアドバイザーの選定を行う
・社内外ともに秘密保持の徹底が必要で、交渉相手(買い手、M&A仲介会社やコンサルタント、弁護士、税理士等の専門家など)とは必ずNDA(秘密保持契約)の締結を行う
・売り手側は、買い手側との信頼構築のため誠実な情報開示を行う(ただし情報開示には順番があるので、アドバイザーと相談をしながら進める)
・企業規模やその他の条件で異なるが、契約完了まで1~2年程度かかることがある
M&Aについて、詳しくは129回記事で解説していますのでご参照ください。
まとめ:自社の事情に合った方法を考えましょう
今回は事業承継の方法を紹介しましたが、実際には企業それぞれ個別の事情があります。
例えば「経営は順調だが過大な借入金がある」「顧客と係争中である」などです。
個別の事情に関してどのように対応するかで、承継方法も変わることがあります。
複数の専門家に相談することをおすすめします。
この記事に関するご質問・ご感想・お問い合わせは【工務店経営の専門家・ジクージン】まで、お気軽にお送りください。
2.従業員承継
3.M&A(第三者への売却)