何か工務店に重大な影響があるのでしょうか?
(工務店・50歳・神奈川)
はい、今回の民法改正は住宅業界への影響が大きいため、今から準備をしておきましょう。
2020年(令和2年)4月1日より、改正民法が施行されます。
これまで何度か取り上げてきましたが、住宅業界は総じて「契約」についての認識が甘いように感じます。
今回、民法が大きく改正されることにより、住宅業界は「契約」に関する大転換点を迎えます。
法律や契約書などはあまり得意でない方もいらっしゃると思いますが、改正民法の概要はしっかり確認して、自社の契約書や契約体制に問題がないか見直しましょう。
それが結果として、施主さまと工務店が互いに信頼し、安心して仕事ができる基礎になります。
民法改正の背景
現行の民法は、明治29年(1896年)に制定されました。今から約120年前です。
言うまでもなく、この間に契約を取り巻く環境は大きく変わりました。
にもかかわらず、契約に関しては、かなりアンティークな法律がベースになっていました。
改正のポイントは債権法における改正で、「ルールの現代化と明確化」です。
例えば、契約場面では「約款」は多く使われています。
ところが現行民法には、「約款」に関する規定がありません。
このため、後に問題が生じたときに、自己に不利な内容の約款条項を知らされて驚く、というトラブルもありました。
また、120年の間に現行法に付け足す形で判例が蓄積され、非常に複雑で分かりにくくなっていました。
今回はこれらを改正したものになります。
民法改正については法務省のサイトに掲載されています。
参考
民法の一部を改正する法律(債権法改正)について -法務省
参考
民法改正の概要 -法務省(PDF:137KB)
改正のポイント
改正のポイントは大きく分けて次の4つとなります。
(1)約款規定の新設
(2)売主や請負人の担保責任
(3)賃貸借における敷金ルールの明文化
(4)消滅時効規定の見直し
今回の民法改正により、「瑕疵」という文言は使われなくなり、「契約の内容に適合しないもの」という文言に改められました。
工務店にとっては、ここが特に影響する部分です。
工務店が注意する点まとめ
ここからは工務店さんが注意しなければならない事項を見ていきます。
特に新築住宅やリフォームの請負工事に関係するところを重点的にご説明します。
1. 約款について
現行法では、契約約款の契約上の要件が定められていませんでした。
そこで「定型約款」という概念を設けました。
そして「定型約款」が契約の内容になるための要件、定型約款の内容の表示(開示)に関するルール、不当条項・不意打ち条例規制に関するルール、約款を相手方と合意なく変更するための要件などを定めました。
国土交通省のサイトでは、建設工事標準請負契約約款について説明されています。
参考
建設工事標準請負契約約款について -国土交通省
またこの中で、民法改正に伴う建設工事標準請負契約約款の改正についても詳しく紹介されています。
・公共約款…公共工事のほか、電力・ガス・鉄道等の民間工事対象
・甲約款…民間の比較的大きな工事対象
・乙約款…民間の比較的小さな工事(個人住宅等)対象
・下請約款…公共工事・民間工事を問わず、下請契約全般対象
となっており、約款のダウンロードもできます(PDFとWord形式が用意されています)。
ここでは、乙約款(いわゆる注文住宅の請負契約時に添付する請負約款)のリンクを掲載しますので、まずは目を通してみてください。
なお、この約款は2020年(令和2年)4月1日以降に使用するものとなります。
参考民間建設工事標準請負契約約款(乙) -国土交通省(PDF:639KB)
2. 「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ
工務店にとって今回の改正で最も重視したいポイントです。
従来の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わりました。
具体的には「瑕疵かどうか」ではなく、「契約に適合しているかどうか」が問われるようになります。
つまり、施主さまと工務店との間でどのような合意がなされたか、具体的な契約内容はどのようになっていたか、が極めて重要な意味を持つことになります。
例えば、従来の契約では、具体的な施工に関する記述はほとんどなかったと思います。
この状態で、仮に施主さまから「この施工はおかしい」と指摘を受けると、契約不適合となる可能性があるのです。
契約に施工上の表記がない場合、建築基準法に準じた一般の技術水準に適合しないと契約不適合に該当することになります。
そこで、契約時に施工標準書や施工手順書を用意し、「施工はこのように行います」と施主さまに提示しておく必要があります。
この通りに施工をしていれば、契約不適合には該当しません。
また工期遅延による責任の立証も明確化されました。
3. 担保責任について
「担保責任」とは、売買において商品に欠陥・瑕疵が存在した場合に、売主(この場合は工務店側)が負う責任のことです。
今回の改正で、買主(施主さま)側が、売主に請求できる権利が追加されます。
簡単に言えば、施主さま側の取りうる手段が増えることになります。
瑕疵担保責任では、買主側の手段は、売主に対して「損害賠償請求」か、瑕疵が重大なときの「契約解除」だけでした。
改正民法では、契約の内容に則した「追完請求」権と、追完されない場合の「減額請求」権、この2種類が追加されます。
「追完請求」とは、契約不適合が認められた場合、修繕や代替物・不足分の引渡しを求めること。
「減額請求」とは、契約不適合でも追完されない場合、契約した内容と現状の差を減額請求することです。
さらに改正民法では、不適合が重大であれば契約の解除が可能となりました。
4. 担保責任の期間
今までは、買主(施主さま)側は引渡しから1年以内に「請求」する必要がありました。
改正後は、施主さまが契約不適合を知ったときから1年以内に「通知」すればよいこととなります。
5. 品確法について
新築住宅の場合、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の特例による規制が及びます。
構造部分や雨漏り等の瑕疵については引渡し時より10年間、瑕疵担保責任を負うことは変わりません。
契約書類をしっかりと準備しましょう
日本はこれからますます契約社会になります。
口頭でも約束したら契約となることはご存知ですね。
それが約束どおりに、正しく言えば、施主さまと工務店が同意した内容のとおりに行われれば、何も問題は起きません。
トラブルやクレームは、「話が違う」「言った言わない」から始まります。
それを最小限に食い止めるのが、契約書や図面、打合せ議事録です。
さらに今回の民法改正を踏まえて、施工標準書も用意するほうが良いと思います。
これらをきちんと準備することで、結果としてお客さまとの信頼関係が構築でき、スムーズな仕事ができるようになります。
引渡し済みのお客さま(OB客)も、安心して他のお客さまをご紹介していただけるのではないでしょうか。
なお、契約書や約款の見直しは、弁護士さんなど法律の専門家と十分な打合せをされることをおすすめします。
ホームページやパンフレットも見直しを
ホームページの記載や、パンフレットなどのお客さまに渡す資料も再確認をしてください。
ぜひ、早めに準備を始めましょう。
(追記)
国土交通省の住宅瑕疵担保制度ポータルサイトの中に、具体例で分かりやすく解説されているパンフレットがあります。
こちらも参考にしてみてください。
今回の民法改正を踏まえ、工務店は何をすればよいのかを具体的に学ぶセミナーを開催しています。
200項目以上に及ぶ改正内容の中から「工務店に関係するもの」だけに絞り、ポイントをお伝えします。
また、実際の現場写真を見ながら、「どういった場合に契約不適合となる可能性があるのか」も学べます。
現場トラブル防止にお役立てください。
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