そこでリノベーション事業を始めるために、空き家を購入し、リノベのモデルハウスとしたいと考えています。この場合、事業再構築補助金の対象となるでしょうか?
(工務店・50代・山形)
はい、主に注文住宅をやられている工務店が新事業としてリノベーションに参入するというご相談は多くあります。
事業再構築補助金の採択の可能性はあると思います。
事業再構築補助金は、第5回公募が令和4年3月24日に締め切られました。
5月下旬から申請受付の第6回を含め、あと3回程度の公募が予定(予算の消化状況による)されています。
第6回公募の締切は、令和4年6月30日(木)18:00となっています。
第1回~第4回までの応募総数は83,011者、採択は35,183者でした。
第4回公募には19,673者の応募があり、8,810者が採択され、採択倍率は2.23でした。
事業再構築補助金も公募開始から1年が経過し、採択の様子も分かるようになってきました。
今回は、令和4年度現在の状況をまとめますので参考にしてください。
補助金の背景や概要は、第116回の記事も併せてご覧ください。
「事業再構築補助金」ホームページもご参照ください。
参考
事業再構築補助金 -中小企業庁
事業再構築補助金について
大まかに概要をご紹介します。
事業再構築補助金の事業予算
事業予算は、令和2年度3次補正予算で1兆1,485億円、令和3年度補正予算で6,123億円、さらに令和4年度予備費で1,000億円の追加で、総額約1兆9,000億円という巨額の予算となっています。
つまり国は「本補助金を積極的に利用して、新事業や事業転換を進めましょう」というスタンスなのです。
申請要件の概要
(1)コロナ以前に比べて売上高が10%以上減少していること
(2)「新分野展開」や「業態転換」等、事業再構築指針に該当する取組であること
(3)付加価値額を年率平均3.0%以上増とする計画を「認定経営革新等支援機関」と策定すること
これらの要件の詳細は、必ず事業再構築補助金ホームページでご確認ください。
参考
事業再構築補助金 -中小企業庁
「事業再構築補助金」事務局ホームページの「公募要領はこちら」のボタンから、「事業再構築補助金 公募要領(第6回)」PDFがダウンロードできます。
「公募要領(第6回)」には、申請対象者の詳細な要件、対象となる経費、申請の手続きなど詳しく書かれていますので必ず目を通してください。
まず、本補助金の対象者であるかどうかをチェックしましょう。
認定経営革新等支援機関とは
認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関と略します)には、金融機関、税理会計事務所、経営コンサルタント会社などがあります。
詳細は、下記中小企業庁のホームページでご確認ください。
参考
認定経営革新等支援機関 -中小企業庁
補助対象経費
何が補助金の対象経費と「なる」のか、「ならない」のか、ここが一番気になるところです。
大枠の例をご紹介します。
詳しくは「公募要領(第6回)」の「補助対象経費」のところをご覧ください。
補助対象になる経費(例)
■ 建物費(建物の建築・改修、建物の撤去、賃貸物件等の現状回復、貸工場・貸店舗等の一時移転)
■ 機械装置・システム構築費(設備、専用ソフトの購入やリース等)、クラウドサービス利用費、運搬費
■ 技術導入費(知的財産権導入に要する経費)、知的財産権等関連経費
■ 外注費(製品開発に要する加工、設計等)、専門家経費(※応募申請時の事業計画の作成に要する経費は補助対象外)
■ 広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等)
■ 研修費(教育訓練費、講座受講等)
補助対象にならない経費(例)
■ 補助対象企業の従業員の人件費、従業員の旅費
■ 不動産、株式、公道を走る車両、汎用品(パソコン、スマートフォン、家具等)の購入費
■ フランチャイズ加盟料、販売する商品の原材料費、消耗品費、光熱水費、通信費
補助経費の対象となるかどうかは、事務局ホームページ「よくあるご質問」の「補助対象経費について」PDFも確認し、また認定支援機関とも相談してください。
参考 事業再構築補助金_よくあるご質問 -中小企業庁【注意】
申請要件として、認定支援機関と一緒に計画を策定することになっていますが、この応募申請時の事業計画作成に要する経費は、本事業の対象経費にはなりません。
ですから認定支援機関に依頼するときは、申請までにかかる費用について必ず確認してください。
事業計画作成費用は、申請時に○○円、採択後補助金の○%といったケースが多いようです。
第6回公募からの主な変更点
第6回公募から、制度の大幅な見直しや拡充が行われています。
そのため今まで申請できなかった方でも、申請ができる可能性があります。
ここでは主な変更点をまとめました。詳しくは「公募要領(第6回)」をご確認ください。
1.売上高10%減少要件の緩和
第5回までは、コロナ前後を比較して10%以上減少していれば、2020年10月以降はコロナの前と比べて5%以上の減少で申請可という要件でした。
これが第6回からは、2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高がコロナ以前と比較して10%以上減少していることのみを要件とするよう緩和されました。
2.回復・再生応援枠の創設
引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者を対象として「回復・再生応援枠」を新設し、最大1,500万円まで中小企業については補助率を3/4に引き上げ(通常枠は2/3)手厚く支援します。
加えて事業再構築指針の要件について主要な設備の変更を求めないこととするといった緩和を行います。
なお、これに伴い緊急事態宣言特別枠は廃止となります。
3.グリーン成長枠の創設
グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者を対象に、補助上限額を最大1.5億円まで引き上げた新たな申請類型を創設します。この場合、売上高10%減少要件を課さないことになりました。
なお、これに伴い卒業枠・グローバルV字回復枠は廃止となります。
さらに、グリーン成長枠については特例的に過去支援を受けたことがある事業者も再度申請が可能となり、採択された場合には最大2回まで支援を受けることができるようになりました。
グリーン成長戦略については、下記経済産業省のPDFをご覧ください。
参考 令和3年6月18日付「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」PDF -経済産業省4.通常枠の補助上限額の見直し
限られた政策資源でより多くの事業者を支援するため、通常枠の補助上限額について、従業員規模に応じ、従来の4,000万円、6,000万円、8,000万円から、2,000万円、4,000万円、6,000万円、8,000万円に見直されました。
5.その他の運用見直し
補助対象経費の見直し(建物費・研修費)
・「建物費」については、原則、改修の場合に限ることとし、新築の場合には一定の制限が設けられます。
・「研修費」については補助対象経費総額の1/3を上限とします。
補助対象経費の見直し(貸工場賃借料)
補助事業実施期間内に工場の改修等を完了して貸工場から退去することを条件に、貸工場の賃借料についても補助対象経費として認めます。なお、一時移転に係る費用(貸工場の賃借料、貸工場への移転費等)は補助対象経費総額の1/2を上限とします。
事前着手の対象期間の見直し
事前着手の対象期間を現在の2021年2月15日から見直し、2021年12月20日以降となります。
以上が主な見直しや拡充となります。それぞれ補助金額や補助率など細かく指定されています。
また、このほかにも第6回から運用が変わったり新設されたりしているものもありますので、必ず公募要領をよくご確認ください。
採択された補助金はいつ入金するのか?
ご存じない方も多いのですが、補助金の支払は、1年以上あとになります。
全体のプロセスは次の通りです。
1.事業再構築補助金の申請
2.採択
3.交付申請⇒交付決定
4.補助事業期間(12か月または14か月)
5.実績報告(計画に対する実績、実際に使った経費の明細とその裏付けなど)
6.補助額の確定
7.精算払い請求
8.補助金の支払
9.その後5年間フォローアップ(毎年報告の義務)
ですから、入金はざっくり1年半ほど後、ということになります。
その間の資金繰りは自社で回す必要があります。
また補助金額が3,000万円を超える案件は、認定支援機関及び金融機関(金融機関が認定支援機関であれば当該金融機関のみでも可)と策定しなければなりません。
これは国が計画の資金的裏付けを求めているからです。
第4回公募の採択結果から見る、工務店や関連事業の例
採択結果を見るには?
「事業再構築補助金」ホームページに「採択結果」のページがあります。
第1回~第4回までの採択案件35,183者すべての「事業計画の概要」が公示されています。
大きくは「地域ブロック別」(PDF版)と、その下に「日本標準産業分類における『事業計画の概要』」(Excel版)があります。
どちらも「エリア」「都道府県」「市区町村」「事業者名」「法人番号」「主たる業種」「事業計画名」「認定支援機関名」が掲載されています。
「事業計画名」だけではどのような内容か分かりにくいのですが、後者(Excel版)には「事業計画の概要」がありイメージしやすいと思います。それぞれダウンロードも可能です。
第4回採択のうち「建設業」について
では、第4回採択のうち、建設業(土木、工務店を含む建築、専門工事業など)分類採択、911者の内容を見てみましょう。
それぞれ新規事業や業態転換に向けた経営者の意気込みを感じます。
ここでは土木系企業と思われる内容は省略し、工務店または建築関連企業(設計事務所や外壁塗装業など)の採択内容の傾向を整理してみます。
あくまでも「事業計画名」「事業計画の概要」に記載されていることだけで推測していますので、必ずしも申請者の意図と合致していないかもしれませんがご了承ください。
まず建築全般を行っているところが外食(キッチンカーも含む)や宿泊業(グランピングも含む)、介護事業(グループホームやサ高住も含む)など、建設業とは違う業界に進むケースが目につきます。
次に設計事務所や塗装業・外壁修理業などの専門業者が、リフォーム業などの元請に転身するケースも多く見受けられます。
そして事業計画名にリノベーション進出を掲げている計画もあります。
これらの計画名や概要を見ると「へー、こんなものでも事業再構築は通るんだ」と感じる方も多いでしょう。
皆さんが考えているよりも事業再構築補助金申請のハードルは低いと思います。
工務店の新分野展開、業態転換、事業・業種転換等を考える
工務店社長の多くは、漠然とでも自社の将来について考えられているのではないでしょうか。
そこで本補助金をきっかけとして「漠然としていたものを明確にし、行動を起こす」。
それが補助金の対象なら使うべきだと思います。
ここでSWOT分析が役に立ちます。事業再構築補助金の申請にも必要となります。
SWOT分析については、第120回で詳しく取り上げていますのでご参照ください。
工務店を取り巻く環境は?
ここでは簡単に、SWOT分析で工務店の環境を考えてみたいと思います。
内部環境の自社の強み・弱みはそれぞれの工務店で大きく違ってきます。
一方、工務店にとっての外部環境は共通です。
全般的に、新築を中心とする工務店にとっての外部環境は、次のようなものが考えられます。
(1)新築マーケットは縮小傾向にある
(2)リフォームマーケットは横ばい傾向にある
(3)大工などの職人は急激に減少している
(4)コロナ禍、ウクライナ戦争により木材価格・設備価格の高騰を受け原価が高騰している
(5)専門業者がリフォーム業の元請化傾向にある
(6)家電量販店、ホームセンター、家具販売店など異業種がリフォームに参入している
(7)SDGs、地球環境、循環型、地産地消、ゼロエネなどのキーワードに対する対応が必須である
(8)(7)に伴う新しい知識や技術の習得が必要である
これらの外部環境は、工務店によって、「機会」(≒チャンス)ととらえるか、「脅威」(≒ピンチ)ととらえるかは、大きく異なります。
一般的な工務店は、職人を抱えていることが少ないので、職人の減少は「脅威」となるでしょう。
逆に、大工や左官の職人を抱えているところは、職人の減少は自社にとって有利となり「機会」となりえます。
つまり外部環境は同じでも、当事者によって見え方が違うのです。
自社はどの分野に可能性があるかを検討する
SWOT分析を通じて「工務店の周辺事業で新展開を考える」というのが一つの方法です。
他方で「まったく従来の事業とは関係のない事業分野を展開する」ことも一つの考え方です。
実際、多くの建設業の会社が飲食・宿泊・介護などへの転身を図っています。
SWOT分析で、自社の事業再構築の方向性を検討してください。
また「採択結果」の「事業計画の概要」で、他社はどのようなもので事業再構築をしようとしているのかを見ながら、「これならうちの方がうまくいくかも…」などとアイデアを出してみるのも良いと思います。
事業再構築補助金の採択に向けて
計画作成にあたっては、次のような点に留意すると良いでしょう。
工務店を知らない人にも分かりやすい説明を
審査は中小企業診断士が行います。中小企業診断士は多くの中小企業のコンサルティングを経験しています。
とはいえ、全員が工務店やリフォーム業のコンサルティングをしたことがあるかというと、そうではありません。
そこで「工務店をチェックするのは初めて」の方が審査する、という前提で計画を作成しましょう。
自社がこれまで何をどのように取り組んできたか、事業再構築では何をやりたいのか、なぜその事業が売上を伸ばせるのか、できる限り客観的に分かりやすく表現する必要があります。
例えば、新しく取り組む事業の市場性について、客観的な説明が必要です。
人口統計なら総務省、住宅着工戸数なら国土交通省、介護関係ならば厚生労働省というように国の統計データは必須です。
またどのようにして売上を増やすのか、つまり集客や販売方法などのマーケティング方法については審査でも重視されています。
どのようにして新事業を成功させるのか?が必要
例えば、工務店が飲食店を始めるとします。
一般的な工務店にとって、飲食店はまったくの新規事業となります。
・なぜ地域工務店が飲食店に取り組むのか
・その飲食店はどのような特徴を持っているのか
・誰が現場を担当するのか
・メニューや店づくりはどうするのか
・お客さまはどのようにして集めるのか
・収益があがる計画になっているか
といった点がチェックされます。
飲食店はどこにでもあります。そしてコロナの影響をもろに受けました。
その厳しい業界に果敢にチャレンジすることは否定されません。
そこで「何か新しいモノやサービスがあるから、成功の可能性がある」という内容が必要です。
計画にこれらの内容が盛り込まれ、この申請書を見れば「なるほど、これなら成功の可能性は高い」となるようにしたいですね。
空き家リノベーションのモデルハウスについて
今回のご質問は、これまで主に注文住宅をやってきた工務店が新事業としてリノベーションに参入する、そのために空き家をリノベーションのモデルハウスにする、ということでした。
これに関しては、事業再構築補助金の採択の可能性はあると思います。
しかし、単に「空き家をリノベーションしたモデルハウスを作り集客する」では難しいかもしれません。
・なぜ新築の注文住宅が難しいのか
・新築からリノベーションに事業をシフトしたときに必要な技術は何なのか
・その技術はどのようにして獲得できるのか
・リノベーションの顧客は誰なのか
・どうやって集客するのか
・なぜモデルハウスは必要なのか
・だから損益の数値目標がこうなる
というように、全体のストーリーが大切になります。
これらを認定支援機関と十分に検討されることが重要です。
申請手続きは余裕を持って
申請手続きは、すべてインターネットで行います。
要領がよくても半日、手間取れば丸1日かかりますので、時間には余裕を持って計画を作成し、申請手続きを行いましょう。
事業再構築補助金の制度は工務店にとっても非常に有効です。
あと3回程度募集がありますので、ぜひ活用したいですね。
認定支援機関と連携し、具体的なアドバイスを行っています。
ご相談は無料です。書類作成を依頼される場合は費用がかかりますので見積いたします。
お気軽にお問い合わせください。
この記事に関するご質問・ご感想・お問い合わせは【工務店経営の専門家・ジクージン】まで、お気軽にお送りください。