粗利益は25%を確保しているのですが、何が悪いのでしょうか?
利益の考え方がよく分かりません。
(工務店経営・30代・大阪)
はい、こちらもよくいただくお問い合わせです。
前回、粗利益ではなく「限界利益」を意識するようご説明しました。
そもそも、この限界利益は、損益分岐点に直結しています。
今回は、損益分岐点とキャッシュフロー(お金の流れ)の考え方をご説明します。
【前回の復習】
■ 「固定費」とは、売上高に関係なく発生する費用のことです。
■ 「変動費」とは、売上高が増えると発生する費用(≒原価)のことです。
■ 「限界利益」=「売上高」-「変動費」
■ 「限界利益率」=限界利益 ÷ 売上高 ×100(%) =(売上高-変動費)÷ 売上高 ×100(%)
「損益分岐点売上高」とは?
自社が最終的に利益を残すための条件は?
経営に携わっていれば、一度は「損益分岐点」という言葉を聞いたことがあると思います。
損益分岐点売上高(以下「損益分岐点」と略します)とは、「この売上高を超えれば、利益が残りだす」という、最低限の売上高のことです。
前回もご説明しましたが、最終的に利益を残すためには、限界利益は固定費よりも大きくなければなりません。
つまり、
となる必要があります。
これが、
となるとき、この一致する売上高が損益分岐点です。
損益分岐点の計算
この損益分岐点を求めるには、
※(売上高-変動費)÷ 売上高 は限界利益率のことです。
ということは、
1=(固定費 ÷ 売上高)÷{(売上高 - 変動費)÷ 売上高 }
つまり、
ややこしいですね。
理解が難しい場合は、とりあえず「そういう計算をするものだ」と覚えてください。
なぜ損益分岐点を超えても資金繰りが苦しいのか?
では、本題の「損益分岐点は超えているのに、なぜ資金繰りが改善しないのか」について考えます。
もう随分前から「キャッシュフロー経営」と言われています。
「キャッシュフロー」とは、文字どおり「お金の流れ」または「お金がいくら残ったか」という意味です。
ここでは「単純キャッシュフロー」という簡易な方法で検討します。
借入金の返済と税金がポイント
ご質問の件は、まさにキャッシュフローの問題です。
いくつかの要因が考えられますが、最も多いのは、借入金の返済分(金利・元金とも)と税金を計算に入れていないケースです。
利息は「営業外費用」に計上される
損益計算書には、営業外費用の内訳に「支払利息」という科目があります。
これは借入金の利息分です。
利息は、経費として営業外費用(本業に関係のない費用)に計上されています。
元金分はどこから払っているのか?
問題は元金分です。
例えば、銀行から1,000万円を金利1.5%、5年返済で借りたとします。
その際、
・「元利均等」…毎月の返済額が一定となる返済方法
・「元金均等」…毎月の返済額のうち、元金の額が一定となる返済方法。返済の初期は返済額が大きくなる
のいずれかで返済予定を組みます。
ここでは仮に「元金均等」返済とします。
すると1,000万円÷60か月で、毎月166,666円の元金分(毎月一定の返済)と利息を返済することになります。
この利息分は前述のとおり、営業外費用の支払利息に計上されます。
一方、元金分の166,666円×12か月=1,999,992円≒200万円は、どこに計上されているのでしょうか?
「借入金の元金返済」という科目は損益計算書にありませんよね。
実は、元金分は最終利益、つまり「税引後最終利益」あるいは「当期純利益」から返済しているのです。
損益分岐点ではキャッシュが足りないことがある
ところが、損益分岐点の計算は、経常利益ベースで計算します。
つまり、計算に支払金利は含まれますが、借入金の元金返済分および法人税等の税金は含まれていないのです。
もし損益分岐点ピッタリの売上高なら、キャッシュとして、借入金返済分と税金が不足することになります。
「利益が出たのに、なぜか納税のお金が足りない」原因はここにあるのです。
キャッシュフローが不足しないようにするには?
「キャッシュフロー分岐点」という考え方を覚える
前項のように損益分岐点だけではキャッシュが不足します。
そこで、損益分岐点の計算式の固定費に次の項目を付け加えます。
= 固定費+「借入金の元金年間返済分」+「法人税等」-「減価償却費」
こうすることで、キャッシュフローがとんとん(プラスマイナス0)になる分岐点が求められます。
これを「キャッシュフロー分岐点(CF分岐点)」と呼んでいます。
=(固定費+借入金の元金年間返済分+法人税等-減価償却費)÷ 限界利益率
※この方法は簡易の方法です。営業利益ベースでいくら残すかを検討するにはこれで十分だろうと考えています。
この計算式で、少なくとも必要なキャッシュを含めた分岐点売上高が想定されます。
しかし、これはあくまでも前年の決算書をベースに計算しています。
ですから前年と同条件であれば「この分岐点売上より上なら、いくらか残る」というものになります。
次回は、キャッシュフロー分岐点を踏まえた経営計画と経営改善の方法について考えます。
それは、工務店のすべての業務が利益につながっているからです。
その集客は何のために行うのか? 業務のどこにムダが隠れているのか?
自社が本当に改善しなくてはいけない点はどこなのか?
工務店経営の中身を読み解き、経営者としての基本と応用が身につく講座です。
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