令和6年版:現在の経営状態を改善するためには?
工務店の経営環境は厳しさを増しています。
住宅着工戸数(持家)は、28か月連続の前年同月比マイナスです。
住宅業界はハウスメーカーも工務店も苦戦しています。
このような厳しい環境だからこそ、社長は資金繰りを把握しておかなければなりません。
ところが「経理や資金繰りは経理担当(例えば奥さま)に任せっぱなし」という社長が多くいらっしゃいます。
実際、向こう半年の資金繰りは、社長が入らなければ分からないのです。
現在の営業状況、受注見通し、利益がいくら残るのか…。
資金繰り表は、社長と経理担当が情報を共有しながら作成することが重要です。
順調に受注できているならばともかく、受注環境が悪化しているときこそ、資金繰り表をしっかりと作成し、先手の経営をしたいものです。
今回は資金繰り表の作成を軸に、どう経営改善していくかをご説明します。
資金繰り、資金繰り表とは?
資金繰りとは「お金のやりくり」のこと。
資金繰り表は「お金の収入と支出を表にして、近い将来のお金の動きを見える化したもの」です。
現場で大きなトラブルがあったり、受注が減少したりすると経営が悪化し、思った以上に資金不足に陥ることがあるものです。
そんなときに必要なものが「資金繰り表」です。
特に、向こう半年くらいの毎月の資金状態が見えるようにすることが極めて重要です。
いまは何とかなっているけれど、これからどうなるのか?
それも資金繰り表で予測ができます。
まずは資金繰り表を作成し、いろいろなシミュレーションをした上で、今後の対策を行います。
資金繰り表の作り方
(1)資金繰り表の完成イメージ
次の表は「資金繰り表」の例です。
自社に合うよう使いやすいデザインにアレンジしても構いません。
ここでは6か月で説明しますが、12か月で作成することをおすすめします。
完成イメージは、Excelで
・資金繰り表シート
・案件別シート
・販管費シート
・借入金一覧シート
以上4つのシートで構成します。
※この資金繰り表は、主に一般的な中小規模の工務店向けとして説明しています。会社によって特殊な項目等がある場合はその都度アレンジしてください。
(2)各項目の作成方法
では、資金繰り表の例をもとに、Excelで作成していきます。
金額は千円単位、多少金額が違っていてもいいので、まずは表を完成させましょう。
ただし、各セルに必要な計算式は間違えないよう気をつけてください。
① 前月末残高
4月の前月末残高「①4月」セルに、前月末の残高を入力します。
残高とは、銀行残高と、手元現金を合計したものです。千円単位で入力します。
4月の当月末残高「⑰4月」セルと、5月の前月末残高「①5月」セルが一致します。
「①5月」セルに「=」を入力し、「⑰4月」セルを反映させます。
「①5月」セルをコピーし、6月~9月の前月末残高「①6月」~「①9月」セルにペーストします。
これで自動的に前月末残高が翌月に反映されるようになります。
②③④⑥⑦⑧ 収入および支出:新築、リフォーム、その他
1. 案件別シートの作成
新築・リフォームの現場件数や見込み客が多い場合は、「案件別シート」を作成します。
案件は「新築」「リフォーム」「その他」でそれぞれまとめます。
案件(邸名)ごとに、「収入(入金)」行と「支出(支払)」行を作成します。つまり案件ごとに2行ずつとなります。
そして、案件ごとに月別の入金予定金額および支払予定金額を入力します。
新築、リフォーム、その他のそれぞれの月別に、入金、支払を合計して完成です。
2. 案件別シートを資金繰り表に反映
資金繰り表で、収入(入金)の新築「②4月」セルに「=」を入力し、案件別シートの4月新築収入(入金)合計のセルに合わせ反映させます。
同様に、資金繰り表の収入(入金)のリフォーム「③4月」セル、その他「④4月」セルも反映させます。
支出(支払)も同じ手順です。
新築「⑥4月」、リフォーム「⑦4月」、その他「⑧4月」の各セルに、「案件別シート」のそれぞれの合計セルを反映させます。
⑤ 収入合計
資金繰り表の収入合計「⑤4月」セルに、新築「②4月」~その他「④4月」セルの合計の式(「Σ」)を入力します。
⑨ 販管費支払
1. 販管費シートの作成
販管費は多くの科目があるため、別に「販管費シート」を作成します。
ここでは直近の決算書を使います。
損益計算書の販管費の勘定科目を縦列に、横行に月を入れ、各科目の数値を入力します。
2. 製造原価報告書の科目を振り分け
まず準備として、製造原価報告書の「労務費」「現場経費」等は、販管費の勘定科目に次のように追加します。(※ここでは外注費、材料費は除外します)
■ 販管費にある役員報酬、給料手当、社会保険料、福利厚生費、退職金などに、製造原価報告書の「労務費」を追加します。これらを合計したものを「人件費」とします。
■ 「現場経費」の勘定科目は、販管費に追加します。
3. 各勘定科目の入力
次に、決算書の各勘定科目の月平均を各月に入力します。
人件費、広告宣伝費、税金は変動が大きいため、月平均ではなく月別に想定値を入力します。(その他の科目も大きく変動する月があれば随時手入力します)
なお、減価償却費はこの表からは外しておきます。
4. 販管費シートを資金繰り表に反映
資金繰り表の販管費支払「⑨4月」セルに「=」を入力し、販管費シートの販管費4月の合計を反映させます。
⑩ 支払利息
1. 借入金一覧シートの作成
金融機関からの借入金がある場合は、別に「借入金一覧シート」を作成します。
各借入金の月別返済予定を「元金」と「支払利息」に分け、表にします。
そして、元金と支払利息それぞれを合計して完成です。
2. 販管費シートの支払利息を資金繰り表に反映
資金繰り表の支払利息「⑩4月」セルに「=」を入力し、借入金一覧シートの「支払利息」の4月合計を反映させます。
⑪ 支払合計
各月ごとの支出(新築⑥〜支払利息⑩)の合計の式を入力します
資金繰り表の支払合計「⑪4月」セルに、新築「⑥4月」~支払利息「⑩4月」セルの合計の式(「Σ」)を入力します。
⑫ 経常収支
経常収支「⑫4月」セルに、収入合計「⑤4月」−支払合計「⑪4月」
の式を入力します。
⑬ 調達
金融機関からの借入、自社への投資などある場合に入力します。
ここには計算式は入れません。
(※この項目は一番最後に入力します)
⑭ 返済
資金繰り表の返済「⑭4月」セルに「=」を入力し、⑩支払利息で作成した借入金一覧シートから「元金」の返済額4月合計を反映させます。
⑮ 財務収支
財務収支「⑮4月」セルに、調達「⑬4月」−返済「⑭4月」
の式を入力します。
⑯ 当月収支
当月収支「⑯4月」セルに、経常収支「⑫4月」+財務収支「⑮4月」
の式を入力します。
⑰ 当月末残高
当月末残高「⑰4月」セルに、前月末残高「①4月」+当月収支「⑯4月」
の式を入力します。
(3)資金繰り表のまとめ・完成
4月列の、「収入:新築②~当月末残高⑰」までを選択し、コピーします。
次に「②5月」~「②9月」セルまでペーストします。
最後に、「⑬ 調達」がある場合は入力します。
これで資金繰り表が完成です。
資金繰り表は、前月末残高「①4月」セルと、調達「⑬4月」~「⑬9月」の各セルのみ手入力ができますが、残りのセルには計算式が入っています。
数字の修正は各シートで行い、「資金繰り表」には直接数字を入力しないようにしてください。(計算式が崩れてしまいます)
資金繰り表の活用方法
資金繰り表が完成したら、中身を検討します。
当月末残高でマイナス(赤字)がないか?
当月末残高で、向こう半年の間に、どこかの月でマイナス(赤字)になっていませんか?
これが一番問題であり、資金繰り表活用の最も重要なポイントです。
マイナスとはいわゆる「資金ショート」、つまり「資金が足りない」状態です。
資金繰り表の目的のひとつは、資金ショートが発生しそうな月を早期に発見し、その対応を検討・実行することです。
資金繰りの改善方法
資金繰りを改善する具体的な方法はたくさんあります。
下記にその一部をご紹介します。
ただ、資金ショートの時期やその額により、柔軟に対応しなければなりません。
(1)受注を増やす
新築受注はすぐに取れないので、当面リフォームを受注することが重要です。
リフォームは、金額は小さいですが短期間に工事が終了し現金収入となるため、資金繰りが改善します。
(2)顧客の見積価格を見直す
そもそも「粗利益率が低い」という場合があります。
コロナ以降、原価が上昇しているにもかかわらず価格転嫁ができない工務店もあると思います。
それが原因で経営悪化しているならば本末転倒です。
見積価格を見直すと共に、顧客への付加価値を説明できるようにしましょう。
なお、粗利の計算方法については、下記の記事で確認されることをおすすめします。
(3)仕入コストの見直し
仕入先の価格を見直します。
コロナの間に木材や資材、設備などほとんどの価格が上昇しました。しかし少しでも安くなるよう価格交渉をする必要があります。
例えば「水回り3点セット(キッチン、バスユニット、トイレ)を年間5棟分仕入れるから価格を下げて欲しい、と複数のメーカーに依頼し競争させ価格を下げてもらう」というように、こちらからも条件をつけることで価格の交渉をします。
※現在は新築需要が低迷しているため、各設備メーカーも新規取引ができる工務店を探しています。交渉はしやすいと思います。
(4)換金できるものは換金する
在庫で換金できるものはありませんか?
例えば、発注ミスで残ってしまったキッチンセット、分譲用の土地など、改めて見てみると案外見つかるものです。
できれば仕入額より高く売りたいのですが、すでに支払は済んでいるため、資金繰り改善のためには販売できる価格で売却することも検討します。
(5)無駄な経費の削減
営業に必要と考えて始めたMA(マーケティングオートメーション)や土地情報システムなど、ほとんど活用していないサブスク型の契約はありませんか?
決算書の元帳を調べると、多くのムダ使いが見つかる可能性があります。
きちんと調べて、不要なものは解約しましょう。
(6)融資など外部からの資金調達
外部からの資金調達の手段は非常に多くあります。
■ 金融機関へ融資を申し込む…まずは金融機関にあたってみることです。
■ 自社への投資を依頼する…これは融資ではなく自社の将来への投資です。説得力ある事業計画書を作成しプレゼンの上、投資をしてもらいます。
なお、手続きには必ず専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
■ 出資を受ける…資本金を増強する方法です。持ち株比率によっては経営が制限されることがあるのでバランスを考えます。
■ ファクタリング…売掛債権を現金化する方法です。手数料が高いためおすすめはできません。また金融機関からの評価が落ちる可能性があります。
■ 縁者・知人からの借入…親類縁者から借りることはよくあります。必ず金銭消費貸借契約書を交わしておくようにしましょう。
(7)回収期間を短縮する
例えば新築で、現在は「契約時10万円、着工時1/3、上棟時1/3、引渡時残金」としていた場合。
これを「契約時10%、着工時40%、上棟時25%、引渡時残金」というように、早めに回収できるよう社内ルールを変更する方法です。
(8)支払条件を見直す
業者への支払を遅くする方法です。
例えば月末締め・翌月末支払であれば、翌々月10日払いに変更するなどです。
これは業者としてはそう簡単に受け入れられないこともあり、丁寧な説明をして理解を求めるようにします。
(9)金融機関にリスケを依頼する
金融機関の借入金返済額を減らす方法です。
「リスケ」とは「リスケジュール」の略です。
金融機関に相談すれば、返済額のうち、元金部分の返済をカットし、金利だけの返済という方法をとってもらうことが可能です。
ただし、金融機関からの御社の格付けは下がり、新規融資や追加融資は非常に限られることになります。
さいごに:早めの対応が肝心です
[資金繰り表について]
資金繰り表を活用することで、経営実態がはっきりします。
経営が不安定なときだけでなく、健全な状態でも資金繰り表で管理することをおすすめします。
資金繰り表は、毎月見直すことと、結果(実績)との比較により、精度の高い表ができるようになります。
[資金繰り改善について]
資金繰り改善は、すぐに対応できるものもありますが、時間がかかることが多いため、早め早めの対応が必要です。
資金繰りの改善手段は、今回ご紹介したもの以外にも多くあります。
会社ごとの現状により、かなり対応が変わりますので、必要に応じて個別にご相談ください。
(ご注意)資金不足でついサラ金やヤミ金などから調達を考えてしまうことがあるかも知れません。これは絶対にやめましょう。確実に経営悪化は加速します。
この記事に関するご質問・ご感想・お問い合わせは【工務店経営の専門家・ジクージン】まで、お気軽にお送りください。