
あまりピンと来ないのですが、具体的にはどういうことでしょうか。
(工務店・40歳・埼玉)
「多能工(たのうこう)」ですね。
一人で複数の作業をこなせる作業者のことを指します。
多くの技能を持つ職人(工)といえます。「マルチスキル」ともいいます。
これに対して、「単能工(たんのうこう)」もあります。
大工さんは大工の仕事、左官屋さんは左官の仕事だけをします。これが単能工です。
専門職であり、匠でもあります。
多能工はどこから始まったのか
日本が工業化を始めた明治のころ。
紡績工場には製造機械が導入され、大量生産が始まりました。
大量生産のためには、分業化・専門業化するほうが効率的でした。
機械を扱うのにも、職人技が要求されたからです。
そこで、専門作業者を増やす単純労働化が進みました。
一人が一つの仕事をする、つまり単能工ですね。
大量生産には単能工、少量生産には多能工
市場が拡大しているときや、大量に生産を請ける工場は、それで良かったのです。
しかし、生産量が少なくなったり、新製品を作るために違う機械が導入されると、専門作業者は余り、必要な作業者が足りない状態が起こります。
そのため、複数の作業がこなせる人材が必要になる場合がありました。
特に高度成長期が終わったころから、製造業では「多品種少量生産」、つまり多くの種類の製品を少しずつ作らなければならなくなったのです。
こうなると、単能工では対応できず、多能工の育成が必要になりました。
住宅業界は「単能工」が続いている

住宅は、工場で大量生産するようなものではありません。
一戸建ての場合は、昔から大工さんが建てるものでした。
図面がなくても家を建ててしまうのですから、大工さんは凄い存在です。
戦後、住宅建築は毎年増加していきました。
高度成長期の1972年に、新設住宅着工戸数は186万戸とピークを迎えます。
この時期は、現場施工の大工さんは不足。
そこでプレハブメーカーが登場します。
大工さんの職人技に頼らなくても建てられる家が現れたのです。
高度成長期には、新建材(樹脂製品、断熱材、板材や壁材、クロスなど)、設備や建具(ユニットキッチンやバス、玄関ドア、サッシなど)が増えました。
そのため、大工さん以外の専門職種も増えていきます。
団塊世代の職人さんは多数
団塊の世代(昭和22年~24年生まれ)は、そんな時期に青春時代を迎えます。
この世代は1年間に240万人も生まれたのです。
現在は109万人前後ですから、いかに多かったかよく分かります。
当然住宅業界に就職する人も多く、大工さんに弟子入りする人もいれば、家づくりの新しい職種につく人もいました。
その後、住宅市場も好不調を繰り返しながら、リーマンショック以降、新設住宅着工戸数は90万戸前後で推移しています。
まもなく引退へ
そして令和元年。
大工さん、左官屋さん、クロス屋さん、基礎屋さん、屋根屋さん、板金屋さん、水道屋さん、電気屋さんなど、多くの職種の職人さんが高齢化を迎えています。
団塊の世代は、70歳~72歳となりました。
新築現場に行くと、年配の職人さんばかりです。
もちろん中には若い方もいますが、少数派です。
団塊の世代は全員、あと3年~5年で後期高齢者となります。
もういつ引退しても不思議ではありません。
多能工の必要はあるのか
住宅は「多品種少量生産」の代表です。
今までは市場が大きかったため、単能工の職人さんたちで仕事をしてきました。
しかし、市場は縮小しています。
また、全職種の職人さんの数も減っています。
この状況を踏まえると、一人の職人さんがいくつもの仕事をこなす必要が出てきました。
実際、リフォームの現場では、器用な職人さんなら簡単な仕事は自分一人でこなす場合もあると思います。
これをもう少し拡大したイメージが「多能工」です。
「左官屋さんがクロス貼りもする」「大工さんが水道工事もやってしまう」、そんな感じです。
「大工さんが監督を兼務する」というのも多能工です。
すでに、営業・監督・職人を兼務している工務店さんもあります。
今後はリフォームだけでなく、新築現場でも多能工が必要になるのではないでしょうか。
多能工のメリット・デメリットと課題
多能工のメリット
■ 業務量の平準化が可能である
■ 環境の変化に強い
■ 利益が残る
などが考えられます。
多能工のデメリット
■ 既存の職人さんとの調整
■ 人材の育成に手間がかかる
■ 評価基準の見直しが必要
などがあげられます。
そもそも誰が多能工になるのか、誰が育成するのか、その職人はどこに所属するのか、など課題もあります。
今後、多能工は確実に活躍する
実際、早くから多能工の採用・育成に取り組まれている工務店さんもあります。
多能工を始めたころは、周りから「便利屋」などと言われ、肩身の狭い思いもされたそうです。
住宅業界は「単能工が当たり前」の時代が続いてきたのですから、無理もありません。
それでも長年やってきて、「今では粗利も多く取れるようになり、お客さまにも喜ばれ、いい仕事ができている」とおっしゃっていました。
職人不足が現実となった今、もう時間はあまり残されていません。
まさに「待ったなし」の状況です。
これは御社の将来にかかわる問題でもあります。
一度、真剣に考えてみてはいかがでしょうか。
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