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【120】工務店のSWOT分析とは?補助金申請だけでなく経営戦略にも使える

Q補助金の申請を準備しています。自力でやってみようとトライしていますが、初めてのことでかなり苦労しています。
SWOT分析というのも難しいのですが、どのように作ればいいでしょうか?
(工務店・福岡・40代)

Aご自身で補助金の申請をされるとのこと、素晴らしいですね。
私もしばしば補助金申請のお手伝いをしますが、できる限り社長と話し合いながら作成するようにしています。

「補助金は欲しいが、申請書を作るのは大変だ、すごく手間がかかる」といって敬遠される社長も多いのですが、実は申請書の内容は、ほぼ事業計画と同様です。

言い換えれば、毎年事業計画を作っていれば、補助金の申請書作成はそれほど難しい作業ではありません

今まで一度も事業計画を作ったことがない方は、これをチャンスと考えて「事業計画の作成」と「補助金の申請」を同時に行ってしまいましょう。

補助金と助成金の違いは、第27回で取り上げていますので参考にしてください。

資金繰り

2021年現在 公募されている補助金

現在公募されている経済産業省の主な補助金には以下のようなものがあります。

事業再構築補助金 https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
ものづくり補助金 https://portal.monodukuri-hojo.jp/
持続化補助金
・日本商工会議所版 https://r1.jizokukahojokin.info/
・全国商工会連合会版 https://www.jizokuka-post-corona.jp/
IT導入補助金 https://www.it-hojo.jp/

持続化補助金については、第107回で詳しく解説していますのでご参照ください。

資金繰り

なぜ補助金申請にSWOT分析が必要なのか?

補助金の申請で重要なのは「その補助金を利用することでどのような成果が得られるか」を明確にすることです。
補助金の原資は税金ですから、給付するだけの価値がある内容でなければなりません。

そこで申請者は、自社がどのような会社か、そして顧客のニーズや市場の動向、自社の強みや弱み、外部環境などを客観的に分析し、その補助金の利用目的、達成目標、目標までの具体的なプロセス、損益計画などを申請書としてまとめます。
※補助金により、申請の内容や形式が異なります。

今回のご質問では、上記の「自社の強み・弱み、外部環境」の部分が「SWOT(スウォット)分析」になります。
SWOT分析は、補助金申請には必ずと言っていいほど記載を求められます。

また、金融機関で融資を申し込むときに、融資担当者から「御社の強みと弱みは何ですか?」と聞かれたことはありませんか?
SWOT分析は、補助金申請だけではなく、融資を申し込むときにも大いに利用されています。

このように、SWOT分析は多くの場面で利用されるだけでなく、自社の経営戦略や今後の事業方針などを検討する際に大変役に立つものです。

SWOT分析の基本と手順

では、改めてSWOT分析の基本を見ていきましょう。

[1]SWOT分析とは

SWOT分析は、「スウォット」分析と読みます。

S:Strength…強み
W:Weakness…弱み
O:Opportunity…機会
T:Threat…脅威

これらの単語の頭文字をとったものです。
大きくは「内部環境」「外部環境」のふたつに分けます。

内部環境とは

「内部環境」とは、自社の状況や状態のことです。
これを自社の「強み(S)」と「弱み(W)」に分け、分析します。

SWOT分析を行ううえで最も重要なのは「客観視」することです。

客観視とは、自分自身や自社を第三者の視点で客観的に見ることです。
イメージとしては、自分や自社スタッフの言動をビデオで録画しそれを観察する感じです。

自社の強みや弱みを客観的に見つめ文章化することは、意外に難しいものです。

外部環境とは

「外部環境」とは、自社を取り巻く環境のことです。
これを「機会(O)」と「脅威(T)」に分けて分析します。

「機会」とは、業界に吹いている追い風や、チャンスです。
例えば、コロナ禍で新築の情報収集はインターネットを利用する人が増える、コロナ禍で在宅ワークが増えリフォーム受注が期待できる、などが挙げられます。

「脅威」とは、業界に吹いている向かい風や逆風、ピンチですね。
例えば、新築人口は年々減少している、ウッドショックで木材が高騰している、などがこれに当たります。

最後は表にまとめる

分析した結果は、下記のような表にまとめます。

SWOT分析表の例

分析方法をもう少し詳しく見ていきます。

[2]内部環境~自社の「強み」と「弱み」を客観的に分析する

「強み」を言い換えると「良いところ」、「弱み」は「良くないところ」です。
できるだけ客観的に項目を上げていきます。

(1)文章の作り方

強みや弱みを挙げるときに、ひとつの項目の文章を短くすることが大切です。
項目は「○○が○○で、○○である」のように簡潔にまとめます。

例えば、自社の強みとして「営業スタッフの女性比率が高いために、奥さま目線の提案ができ、お客さまの共感を得られやすく成約につながりやすい」が挙げられたとします。
これを「営業スタッフの女性比率が高く、奥さま目線のご提案ができる」と短くまとめる感じです。

(2)「強み」「弱み」分析の具体的な方法

自社の強み・弱みを分析するには、次のような方法でやってみると良いのではないでしょうか。

1.社長自身ができる限り客観的に考え、自社の強みと弱みをそれぞれ書き出してみる
2.社員だけのミーティングでまとめる
3.取引業者に何げなく聞いてみる
4.OB施主さまに聞いてみる

順に見ていきます。

1.社長自身ができる限り客観的に考え、自社の強みと弱みをそれぞれ書き出してみる

まずは社長ひとりで作ってみます。
SWOT分析表をExcel等で作成し、そこに思いつくまま「強み」「弱み」を入力してみます。

分析を始めてみると、「強み」と「弱み」が裏腹になっていることに気づきませんか?

先ほどの例でいうと「強み」は「営業スタッフの女性比率が高く、奥さま目線のご提案ができる」でした。
これが「弱み」だと「ご主人のご要望が漏れることがある」となります。

あるいは「強み」が「自社のプロデューサーは営業から現場手配、管理、引渡まで1人でできる」「プロデューサーは4名おり、それぞれ個性がある」会社があったとします。
なかなかいい感じの工務店に見えます。
しかし「弱み」は「4名がそれぞれ独自の提案をするため会社の標準スタイルがない」となりそうです。

このように、しばしば「強み」が「弱み」にもなることがあります
また「強み」が「弱み」として認識できていない場合も問題ですね。

たまに「強み」ばかり出てくる社長がいらっしゃいます。「弱み」を伺うと「そんなものはない!」
それこそが本当の「弱み」かもしれません。客観視できていないからです。

SWOT分析は、自社の問題点に客観的に気づく手段でもあるのです。

2.社員だけのミーティングでまとめる

SWOT分析を社員だけで行います。
社長は社員に対してSWOT分析の主旨をきちんと説明します。
その上で、社長と同様に「できるだけ客観的にまとめる」ように伝えます。

また、特に「弱みについては率直に出す」よう指示しましょう。
社員が考える自社の弱みを冷静に見つめることは極めて重要になります。

とはいえ、社員も客観的とは限りません。むしろ社員のほうが視野が狭いことも多々あります。
自社の本当の強みに気づかず、あるいは知らずに業務をしているとすれば、実にもったいないですね。

ネガティブな社員がいると、会社の「弱み」ばかりを列挙することがあります。
この場合はもう少し自信をつけさせる必要があるかもしれません。

3.取引業者に何げなく聞いてみる

取引業者さんにさらっと聞いてみるのは良い方法だと思います。

「○○さん、うちの強みってどんなところかなあ?」「じゃあ、弱みは?」という感じで聞いてみてはいかがでしょうか?
社内では誰も気づいていない、意外な回答が出てくるかもしれません。

4.OB施主さまに聞いてみる

同様に、OB施主さまに伺うのも良いと思います。
以下は実際にあった例です。

「強みは断熱気密に優れていて一年中快適な家だということ」
「弱みは営業さん、設計さん、監督さんの連携が悪く、決まった内容が伝わっていないこと」
これは困りましたね…。

1~4で拾い出したら、SWOT分析表にまとめます。

[3]外部環境~「機会」と「脅威」を考える

外部環境は、普段からテレビのニュースや新聞、業界誌などから情報を取っていれば、それほど難しくないと思います。

「機会」の例

機会」とは、業界に吹く追い風。
この風にうまく乗れれば、契約も比較的に楽にとれる、そんな状態が「機会」です。
例を挙げてみます。

・国は2030年までに住宅のゼロエネルギー化を推進している
・住宅販売増進のために、国は住宅減税を来年3月末まで延長している
・○○県では、住宅耐震化のために県独自の補助金をだしている
・地域の中堅住宅会社の支店が撤退した

「脅威」の例

脅威」は、業界全体が大変な状態になりそうだ、など契約するのが難しくなる状態です。
例を挙げます。

・新築を建てる30歳前後の人口が減少を続けている
・ウッドショックで材料が入りにくく、価格も高騰している
・職人の高齢化で引退が増え、職人の確保が難しくなってきた
・近所にローコスト住宅をウリにしているFC加盟の工務店が現れた

「機会」と「脅威」が入れ替わる場合も

これらの例で「それは機会ではなく脅威ではないか」と思うものはありませんか?
つまり世間では「脅威」であっても、自社にとっては「機会」となる場合があるのです。

例えば「ウッドショック」は、業界全体では大変な事態です。
しかし、以前からほぼ国産材でまかなっている工務店は、価格変動こそあれ、材料不足にはなりません。
つまり一般的には「脅威」ですが、この工務店にとっては「機会」となります。

外部環境については、国や都道府県の政策、自社の地域環境などの切り口で検討してみてください。

[4]SWOT分析のまとめ方

各項目が完成したら、先ほどのSWOT分析表に転記すればでき上がりです。

ここでは補助金申請に使うSWOT分析表ですから、それぞれの項目数は、7~10個程度で良いと思います。
実際にはかなりの項目数が出ている場合もあると思いますが、その中から選ぶようにします。

「相手に伝わる」ように分かりやすく作成する

補助金申請の場合、審査をする人がこのSWOT分析を見て「なるほど、この業界はこういった環境で、その中でこの会社はこのような強みや弱みを持っているのか」と理解できることが大切です。

ちなみに審査をする人とは、主に中小企業診断士です。工務店を知っている診断士もいらっしゃいますが、逆にこの業界の事情を全く知らない人もいます。

ですから、申請書類は住宅業界を知らない人が読んでも分かるように、できるだけ分かりやすく作成することが非常に重要です。
ちなみに私は「小学5年生が分かるように作成してください」とお伝えしています。

さいごに~SWOT分析は様々な場面で役に立つ

社員と一緒にSWOT分析をしてみると、社長の考えていたことが社員に浸透していない、という事実にしばしば遭遇します。
これもSWOT分析の効果としてとらえ、あらためて社長自身の考え方を徹底することにも使えます。

今回は、申請書用を前提にSWOT分析の効能もご紹介しました。

SWOT分析はもっと戦略的に使えます。SWOT分析のクロス分析という方法です。
これについてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

ぜひ、SWOT分析を事業計画に役立ててください。

この記事に関するご質問・ご感想・お問い合わせは【工務店経営の専門家・ジクージン】まで、お気軽にお送りください。


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間瀬 隆司
工務店経営の専門家。集客・営業、人材教育・組織づくり、経営計画、資金繰りを含めた「全ての面倒をみる」スタイルのコンサルティングで、工務店さんを支え続けて30年。工務店のほぼすべてを知り尽くしており、駆け込み寺的な役割を果たしています。神奈川県横浜市在住。海を見るとホッとします。
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